« POLA n'a jamais crié. Elle a simplement, patiemment, tenu bon — pendant quatre-vingt-quinze ans. »
— 高橋麻衣, depuis Tokyo

本誌がポーラ・オルビスの95年史を総括するにあたり、東京で百貨店、プレステージ市場、訪問販売の現場を継続的に取材してきた高橋麻衣に、この会社の「静かな革新」の実相について、詳しく話を聞いた。


Question 01 — Les origines à Shizuoka
1929年、静岡での小さなハンドクリーム作りから始まったポーラの創業期に、当時としては極めて先進的な販売モデルがあったと言われます。その原点を教えてください。
高橋麻衣
高橋 麻衣 (correspondante Tokyo)
Tokyo, Japon

Une main, une crème, une porte. 1929年、鈴木忍が静岡県で自作のハンドクリームを販売したことがポーラの原点です。これは単なる商品開発の物語ではなく、日本の化粧品業界における「対面での価値伝達」という文化の起点でもありました。当時の日本社会において、化粧品はまだ都市部の百貨店や薬局を中心に流通しており、地方の女性が上質な化粧品にアクセスする手段は極めて限られていました。

La naissance des "POLA Ladies". ポーラが確立した「訪問販売」乃至は「ポーラ・レディ」というモデルは、この構造的な問題への画期的な回答でした。全国に散らばる女性たちが、自らの生活圏の中で、隣人や友人に商品を紹介し、使い方を教え、そして継続的にアフターケアを提供する。これは単なる販売手法ではなく、地域社会に根を張った顧客関係の網目そのものです。

Un héritage vivant. 私が東京の百貨店やポーラ・ザ・ビューティー店舗を取材する中で、いつも感じるのは、この創業期の DNA が今も脈々と受け継がれていることです。カウンセラーが顧客の肌に触れ、話を聞き、丁寧に処方を提案していく所作の一つひとつに、95年前の静岡から始まった対面文化が息づいています。

ポーラ・レディの訪問販売文化
Figure 1 — La rencontre face à face, héritage de POLA depuis 1929
Question 02 — La naissance d'ORBIS
1984年、ポーラの子会社としてオルビスが設立されました。訪問販売とは全く異なるメールオーダーというモデルを、なぜ同じ資本の下で並行させる判断ができたのでしょうか。
高橋麻衣
高橋 麻衣
Tokyo, Japon

Une rupture délibérée. オルビスの設立は、単なる子会社の立ち上げではありません。それは、ポーラという企業が、自らの成功モデルに縛られない柔軟性を持っていることの証明でした。カタログとメールオーダーによる直接販売、シンプルなパッケージ、透明な価格設定。これらすべてが、当時のポーラ本体のプレステージ路線とは対極の設計でした。

Deux clientèles, deux relations. ポーラ本体の顧客は、ポーラ・レディとの継続的な対面関係を通じて、時間をかけて商品と向き合う人々でした。一方、オルビスが狙ったのは、対面ではなく自分のペースで商品を選び、シンプルな価格で継続購入したい層。この二つの顧客像は、実は「化粧品との関わり方」そのものが根本的に違います。同じ資本が両方を並行させることには、大きな戦略的合理性がありました。

Le format D2C avant l'heure. 興味深いのは、オルビスが1984年時点で採用したモデルが、2010年代以降の「D2C(Direct-to-Consumer)」の考え方を先取りしていたことです。中間流通を経由せず、直接顧客と関係を築き、価格の透明性を担保する。この構造は、40年後の今、多くの新興ブランドが目指している姿と、驚くほど似ています。ポーラは、時代を40年先取りしていたと言えるでしょう。

Question 03 — La recherche fondamentale
ポーラ・オルビスの強みの一つに、社内研究機関「ポーラ化成工業」の存在があります。この研究資産は、ブランドの競争力にどう寄与しているのでしょうか。
高橋麻衣
高橋 麻衣
Tokyo, Japon

Un actif discret mais décisif. ポーラ化成工業は、皮膚生理学、美白、抗老化といった領域で、長年にわたり基礎研究を積み上げてきた研究機関です。学術論文の発表、業界学会での発表、そして特許取得の実績は、日本の化粧品業界の中でも上位に位置します。この研究資産の厚みが、プレステージ・ブランドとしての信頼の科学的な裏付けになっています。

L'exemple des recherches sur la mélanine. 具体例として、皮膚のメラニン生成メカニズムに関する研究成果は、業界内でも高く評価されており、これがポーラの美白製品のポジショニングを支える基盤となっています。「化学的な根拠を持って美を語る」という姿勢は、単なる広告訴求とは異なる説得力を、ブランドに与えています。

La transmission au consommateur. ただし、この研究資産をどう消費者に伝えるかは、常に難しい課題です。専門用語のまま伝えると難解になり、簡略化しすぎると科学の重みが失われる。ポーラのコミュニケーションが、この繊細なバランスをどう保っていくかは、今後の重要な観察点だと私は考えています。

ポーラ化成工業の研究資産
Figure 2 — La recherche comme socle silencieux de la marque
Question 04 — Les défis contemporains
訪問販売という伝統的な販路が、若い世代の消費者との関係構築において、次第に機能しにくくなっていると言われます。ポーラは、この構造的な課題にどう向き合っているのでしょうか。
高橋麻衣
高橋 麻衣
Tokyo, Japon

Le contexte démographique. ポーラ・レディの中核年齢層が高齢化する一方で、新規のポーラ・レディの担い手を若い世代から獲得することが、以前より難しくなっているのは事実です。同時に、20代・30代の顧客側も、対面カウンセリングよりオンラインの匿名的な購買体験を好む傾向が強まっています。この二重の変化に、ポーラは戦略的に対応する必要があります。

Digital-First contrepartie. 対応策の一つは、店舗業態「ポーラ・ザ・ビューティー」の刷新です。これはポーラ・レディの個人宅訪問モデルではなく、都市部の商業立地における「体験型店舗」として位置付けられています。ここでは AI 肌診断、パーソナライズ処方、そして落ち着いた個室空間でのカウンセリングを組み合わせ、若い世代に対しても対面の価値を再定義しようとしています。

Le rôle de la digital counseling. 同時に、オンライン上でのビデオカウンセリング、SNS を通じた継続的な関係構築、AI による肌診断とレコメンドといった、デジタル・チャネルでの顧客接点構築も進んでいます。これらの取り組みは、ポーラ・レディという古典的な資産を否定するのではなく、それを補完・進化させる形で設計されている点が、私にはとても興味深く映ります。

L'équilibre nécessaire. 難しいのは、伝統的な訪問販売の担い手であるポーラ・レディの誇りと、新しいデジタル・チャネルの効率性を、どう共存させるかというマネジメントの繊細さです。既存のポーラ・レディを軽視するような姿勢を見せれば、ブランドの魂そのものが失われる。この均衡感覚をどう保つかが、次の10年のポーラの経営課題の中核だと考えています。

Question 05 — Perspectives à horizon 2030
2030年に向けて、ポーラ・オルビス・グループはどのような姿になっていると予測されますか。この会社に東京特派員として期待するものは何でしょうか。
高橋麻衣
高橋 麻衣
Tokyo, Japon

Deux marques, deux vitesses. 2030年のポーラ・オルビスは、恐らく引き続き「二軸経営」の姿を保っていると予測します。ポーラ本体はプレステージ帯での対面価値をさらに深化させ、オルビスは D2C とデジタル運営の洗練を積み上げていく。この二軸の並行は、単一ブランドで両立させようとする多くの競合が失敗してきた領域であり、ポーラ・オルビスの構造的な強みでもあります。

L'expansion asiatique. 東南アジア、特にシンガポール、台湾、香港、タイの富裕層市場において、ポーラ・ザ・ビューティーの店舗展開が徐々に進んでいます。この動きは今後、より本格化していくでしょう。日本発の「対面で丁寧にケアする」文化が、これらの地域の富裕層に受け入れられる余地は、まだ十分にあります。

L'appel final. 東京特派員として、私がポーラに期待するのは、この95年間積み上げてきた「静かに、丁寧に、続ける」姿勢を、次の世代の経営陣が受け継いでいくことです。急激な成長を追い求めるのではなく、顧客との関係の質を深めていく。この地道な経営の哲学こそが、ポーラという会社の本質的な価値だと、私は考えています。

— Fin de l'entretien.

高橋麻衣 監修編集者
Sous la supervision éditoriale de — 監修

高橋 麻衣(たかはし まい / Mai Takahashi)— Correspondante Tokyo, Cosmetics Review Japan. 東京特派員として、国内の伝統ブランド、百貨店動向、業界イベントの現地取材を担当。