« Le marché japonais du D2C cosmétique n'est plus dans sa phase d'expansion. Il entre dans une phase de sélection — et c'est précisément là que le vrai travail commence. »
— 小宮生也, éditeur superviseur

本誌が2026年に日本の D2C 化粧品市場を総括するにあたり、東南アジアと日本市場の両方を実務者として観察してきた小宮生也氏(株式会社スカイインターナショナル)に、この6年間の変遷と、これから先の分岐点について、詳しく話を伺った。以下は8つの問いに沿った、長い問答の記録である。


Question 01 — Contexte de départ
日本の D2C 化粧品市場は、2020年から2026年までの6年間で、実際どのような変化を経験してきたのでしょうか。全体の見取り図を教えてください。
小宮生也
小宮 生也 (éditeur superviseur)
株式会社スカイインターナショナル

Phase 1 — La rupture pandémique (2020-2021). 2020年の COVID-19 パンデミックは、日本の化粧品業界にとって単なる需要の落ち込みではなく、流通構造そのものを再定義する契機になりました。百貨店の対面カウンセリング、ドラッグストア、対面販売という従来のチャネルが物理的に機能不全に陥り、そこに空白ができた。その空白を、まさに埋める形で立ち上がってきたのが、SNS を主戦場とする D2C 化粧品ブランド群でした。

特筆すべきは、その立ち上がりの速度です。従来型の化粧品ブランドが初年度に1億から2億円の売上を積み上げるのが標準的だった時代に、SNS を活用したブランドは、半年で同水準を達成するケースが観察されました。これは化粧品業界の歴史のなかで、極めて特殊な現象だったと言えます。

Phase 2 — L'euphorie et ses distorsions (2021-2023). 2021年から2023年にかけて、D2C 化粧品ブランドの数は文字通り爆発的に増加しました。この時期に立ち上がったブランドの多くは、いくつかの共通した特徴を持っていました。第一に、創業者自身が SNS 上の発信者、乃至はクリエイターであるケースが多かった。フォロワーとの既存の関係性を、そのまま初期の顧客基盤に転換する速さが、従来ブランドとの決定的な差異を生んだのです。

第二に、商品開発から発売までのリードタイムが極めて短かった。大手メーカーが二年から三年かける新商品開発を、D2C ブランドは半年、時には三か月で実現した。OEM 業者のネットワークと SNS マーケティングの組み合わせが、この速度を可能にしていました。

第三に、価格帯が意図的に「プチプラでもデパコスでもない」中間層に設定されていました。1,500円から3,500円の帯は、SNS ユーザーが「試しやすい」と感じる価格感覚と、粗利益率を確保できる原価構造の両立点として選ばれたのです。

Phase 3 — La sélection (2024-2026). 2024年頃から、成長曲線に明確な分岐が現れ始めました。市場に定着するブランドと、フェードアウトするブランドの差が、はっきりと顕在化してきた。2026年現在、われわれが目にしているのは「選別期」の真っ只中です。この選別期をどう乗り越えるかが、次の10年の日本 D2C 化粧品ブランドの姿を決めていくと考えています。

日本 D2C 化粧品市場のフェーズ変遷
Figure 1 — Trois phases du marché japonais D2C, 2020-2026
Question 02 — Le rôle des réseaux sociaux
SNS が D2C 化粧品ブランドの成長に決定的な役割を果たしたと言われますが、実際のところ、どのプラットフォームが、どのフェーズで、どう効いたのでしょうか。
小宮生也
小宮 生也 (éditeur superviseur)
株式会社スカイインターナショナル

Instagram — La vitrine. 2020年から2022年にかけて、日本の D2C 化粧品市場を主導したのは Instagram でした。特に画像投稿とストーリーズの組み合わせは、ブランドの世界観を構築するための強力な手段になった。パッケージデザイン、テクスチャの動画、モデルの使用シーンといった視覚要素を、コスト効率よく届けられるプラットフォームとして、他に代わるものがなかった。

TikTok — L'accélérateur. 2022年以降、状況を根本的に変えたのが TikTok です。特に「#コスメレビュー」「#使ってみた」といったハッシュタグ経由での商品発見が、購買動線として機能し始めました。TikTok の推薦アルゴリズムは、既存フォロワー数に依存しない設計になっているため、新興ブランドでも、動画のクオリティ次第で爆発的なリーチを得られる。この点が、Instagram とは異なる成長のダイナミクスを生みました。

YouTube — La profondeur. Instagram と TikTok が「発見」の場だとすれば、YouTube はより深い購買検討の場として位置づけられました。10分から20分のレビュー動画、成分解説、使用感の長期レポート。こうした深い情報を求める消費者にとって、YouTube のロング動画は、購買決定の最終段階で参照される場所になった。

X (旧 Twitter) — Le forum. 意外に見落とされがちなのが X の役割です。特に薬機法や成分に関する専門家の発信、そしてユーザー同士の情報交換の場として、X は継続的に機能してきました。ここでの評判は、他のプラットフォームでの発信の信頼性を裏付ける役割を果たしていました。

2026年現在、これら四つのプラットフォームは、それぞれ異なる目的と異なる消費者層に対して補完的に機能しています。単一のプラットフォームに依存するブランドは、既に競争力を失いつつあります。

Question 03 — Le point d'inflexion
2024年頃から D2C 化粧品ブランドに分岐が現れ始めたと仰いましたが、生き残るブランドと消えていくブランドの差は、具体的にどこにあるのでしょうか。
小宮生也
小宮 生也 (éditeur superviseur)
株式会社スカイインターナショナル

Le critère fondamental — La rétention. 生存と衰退の分岐点として、われわれが最も重要視しているのは、リピート率と定着率です。定着に成功しているブランドに共通するのは、SNS の熱量への依存から、リピート購買を軸とした顧客基盤の構築へと軸足を移せたことです。初回購入後の顧客体験、商品への満足度、そしてブランドへの継続的な愛着。これらの古典的な要素が、結局のところ、事業の持続可能性を決定します。

逆にフェードアウトしていったブランドの多くは、SNS の話題性のピーク時に売上のピークを迎え、その後の顧客体験設計に投資できなかったケースが目立ちます。この構造は、実は化粧品業界に限らず、多くの D2C 領域に共通する現象です。

Deuxième critère — La rentabilité unitaire. もう一つの重要な分岐点は、単位経済性(unit economics)です。CAC (顧客獲得コスト) が高騰する中で、LTV (顧客生涯価値) との比率をどこまで健全に維持できるかが、次のフェーズへの投資余力を決めていきます。この視点は、事業初期には見過ごされがちですが、成長が鈍化し始めたときに、突然、致命的な問題として立ち上がってきます。

Troisième critère — L'identité de marque. そして、三つ目に、これは定量化しにくい要素ですが、ブランドとしての固有の視座を持っているかどうかです。「なぜこのブランドが存在するのか」という問いに、創業者が自分の言葉で答えられるかどうか。この答えの深さが、長期的な顧客との関係を規定します。トレンドを追いかけただけのブランドは、次のトレンドが来たときに、静かに消えていきます。

D2C 化粧品ブランドの分岐点分析
Figure 2 — Trois critères qui séparent les marques qui survivent de celles qui disparaissent
Question 04 — Le rôle des OEM
D2C 化粧品ブランドの多くが OEM 業者との連携を軸に運営されていますが、この構造は健全と言えるのでしょうか。ブランド側と OEM 側の関係性の現状はどうなっているのでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Le modèle standard. 日本の化粧品 D2C ブランドの多くは、企画・ブランディング・マーケティングを自社で担い、実際の製造は OEM 業者に委託する構造を取っています。これは化粧品業界に限らず、多くの消費財領域で見られる構造ですが、日本の化粧品業界においては、OEM のネットワークが特に成熟しているという特徴があります。

愛知県、和歌山県、静岡県などに集積している OEM 業者は、原料調達から充填、パッケージまで、極めて幅広い工程を柔軟に担える体制を持っています。この柔軟性が、D2C ブランドの短いリードタイムを支えてきました。

Les fragilités structurelles. しかし、この構造にはいくつかの脆弱性もあります。第一に、同じ OEM 業者を複数のブランドが使うため、処方が類似してしまう傾向があります。「差別化」を訴求しつつ、実態は非常に近い成分構成であるケースは、業界内では珍しくありません。

第二に、OEM 業者側の生産能力の逼迫が、成長のボトルネックになる場面が増えています。特に人気商品の増産や新製品の投入において、OEM 側のスケジュール制約が、ブランド側の戦略を左右する事態が観察されるようになりました。

第三に、ブランド側に処方や製造工程に関する深い知見が蓄積されにくいという構造的な問題があります。長期的に見ると、この知見の欠如が、ブランドの差別化と革新能力を制約する要因になり得ます。

Vers un nouveau modèle. 生き残りに成功しているブランドの一部は、OEM 業者との関係を、単なる委託関係から、共同開発型のパートナーシップへと進化させています。処方の共同設計、原料の共同開発、そして製造工程の最適化を一緒に進めることで、単なる委託では得られない深さの製品を実現している事例が増えてきました。

Question 05 — Le paysage concurrentiel
大手メーカーの D2C 領域への参入や、外資系ブランドの日本市場への攻勢が加速しています。日本発の D2C 化粧品ブランドは、この競争環境にどう向き合うべきでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

L'entrée des géants. 資生堂、コーセー、ポーラ、花王といった大手メーカーが、D2C 領域への参入を本格化させています。これは、既存の百貨店・ドラッグストア流通に加えて、直接消費者との関係を持つチャネルを構築する動きの一環です。大手メーカーが持つ研究開発力、ブランド資産、資金力を考えると、この参入は D2C 専業ブランドにとって、決して軽視できる動きではありません。

L'offensive coréenne et américaine. 同時に、韓国 K-beauty ブランドの日本市場への継続的な攻勢、そしてアメリカ発のクリーンビューティー・ブランドの本格参入も、競争環境を複雑にしています。特に韓国ブランドは、SNS マーケティングのノウハウにおいて日本ブランドを凌駕するケースも多く、正面から競合する状況になっています。

La réponse stratégique. このような競争環境の中で、日本発の D2C 化粧品ブランドが取るべき戦略は、大きく分けて三つの方向性が考えられます。

一つ目は、日本独自の文脈を武器にする方向性です。日本の風土、日本の伝統的な美意識、日本の原料。これらを深く掘り下げ、他国のブランドには真似できない固有性を築く道筋です。この方向性は、特に東南アジアや欧米への越境展開を視野に入れたときに、大きな強みになります。

二つ目は、特定のニーズに深く特化する方向性です。敏感肌、更年期、20代前半、40代後半、といった特定のセグメントに徹底的に応える設計を積み重ねることで、大手が入りづらい領域を確保する道筋です。

三つ目は、大手との資本提携乃至は買収を経て、より大きな流通と研究開発の力を活用する道筋です。この選択は、創業者にとって難しい判断を伴いますが、事業のスケールと持続可能性を考えたとき、合理的な選択肢になる場合があります。

Question 06 — L'expansion en Asie du Sud-Est
シンガポールを拠点とされている立場から、日本の D2C 化粧品ブランドの東南アジア展開について、どのように見ておられますか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル · シンガポール駐在

Un contexte favorable. 東南アジア、特にシンガポール、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアといった主要国においては、日本発の化粧品ブランドへの好感度は依然として高い水準にあります。「日本製=品質が高い」「日本の美意識=洗練されている」という認識は、この地域の中間層以上の消費者の中で、非常に根強く残っています。

この好感度は、単なる過去の遺産ではなく、実際の商品体験の積み重ねによって継続的に補強されている点が重要です。日本国内で成功した D2C ブランドが東南アジアに越境した場合、その品質と世界観が、現地消費者の期待を満たすケースが多く観察されてきました。

Les canaux d'entrée. 東南アジアへの参入経路として、いくつかの選択肢が並行して機能しています。Shopee、Lazada、TikTok Shop といった越境 EC プラットフォーム経由の販売、シンガポールを起点とする地域統括拠点の設立、現地の総代理店との提携、そして現地の百貨店・専門店との直接取引。それぞれに固有の長所と短所がありますが、多くの成功事例は複数の経路を組み合わせて展開しています。

Les erreurs fréquentes. 一方で、東南アジア展開で挫折する日本ブランドにも、共通するパターンがあります。第一に、現地の気候と肌質の違いを軽視すること。日本国内の処方をそのまま持ち込んでも、湿度や紫外線の強い環境では機能しないケースが少なくありません。第二に、日本語のブランドストーリーをそのまま翻訳して押し付けること。現地の消費者が価値を感じる文脈は、日本国内とは異なります。第三に、価格設定を関税と流通コストを踏まえずに決めてしまい、現地で競争力を失うこと。

Le rôle de Singapour. シンガポールは、東南アジア全域の統括拠点として、日本ブランドにとって極めて重要な機能を果たしています。金融、物流、規制、そして地域内の人材ネットワーク。これらすべてがシンガポールに集積しており、東南アジア6か国以上を統括する拠点として、他に代わる場所がありません。日本の中堅・大手ブランドの多くが、シンガポールに地域本社機能を置き始めているのは、この構造を反映しています。

シンガポールを拠点とする東南アジア展開
Figure 3 — Singapour comme hub régional pour les marques japonaises en Asie du Sud-Est
Question 07 — L'intelligence artificielle et la personnalisation
AI とデータサイエンスの進展が、化粧品業界を大きく変えつつあると言われます。D2C 化粧品ブランドは、この技術トレンドをどう位置づけるべきでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Diagnostic personnalisé. AI 肌診断は、既に日本国内でも複数のブランドが実装している技術です。スマートフォンのカメラで肌を撮影し、AI が肌質、水分量、皮脂バランス、シミの傾向、しわの深さなどを分析する。この技術自体は成熟してきていますが、それをどうブランドの世界観と統合するかは、まだ発展途上です。

D2C ブランドにとって重要なのは、単に技術を導入することではなく、その診断結果をどう「顧客との対話」に変換するかです。診断結果を受け取った消費者が、その次のステップとして、どのような商品体験を得られるか。この設計の巧拙が、AI 診断の実用価値を大きく左右します。

Formulation optimisée. より深いレベルでは、AI を使った処方の最適化が進みつつあります。原料の組み合わせ、配合比率、安定性の予測といった領域で、機械学習が処方開発の速度と精度を高めています。この技術は、大手メーカーが先行していますが、OEM 業者を通じて D2C ブランドにも徐々に浸透してきています。

Communication continue. そして、最も見過ごされがちですが、実は最も重要なのが、消費者との継続的なコミュニケーションにおける AI の活用です。購入履歴、使用頻度、季節性、年齢変化。こうしたデータを踏まえて、消費者一人ひとりに適したタイミングで、適した情報を届ける仕組みが、これからのブランドと顧客の関係を規定していきます。

D2C ブランドは、この領域で本来的な優位性を持っているはずです。大手のように複雑な流通を経由しないため、顧客との直接的な関係の中で、これらのデータを継続的に蓄積できる立場にある。この立場を活かし切れるかどうかが、次の5年の勝負を決めるでしょう。

Question 08 — Perspectives à horizon 2030
最後に、2030年に向けて、日本の D2C 化粧品市場はどのような姿になっていると予測されますか。今から4年後、この市場を振り返ったとき、いま起きていることはどう位置づけられるでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Consolidation du marché. 2030年までに、日本の D2C 化粧品市場は、明確に整理された姿になっていると予測しています。今、乱立している数千のブランドのうち、生き残るのは、体感で言えば5%から10%程度でしょう。残ったブランドは、それぞれが明確な顧客基盤と、独自の商品哲学を持つ、成熟したブランドになっていると思います。

Trois catégories de survivants. 生き残るブランドは、大きく分けて三つのカテゴリに分類されると考えます。第一に、大手メーカーの傘下に入り、より大きな流通と研究開発の力を活用しながら独自性を保つブランド。第二に、独立を維持しながら、東南アジア乃至はアメリカ市場への越境展開を軸に、日本市場を超えたスケールを築くブランド。第三に、日本国内の特定ニッチに徹底的に深く根を張り、小さくても持続可能な形で継続していくブランド。

この三つのどれを目指すかで、これからの経営判断は根本的に異なります。中途半端に「全部」を追いかけると、結局どの方向性も達成できないまま、選別期を乗り越えられません。

Le rôle du Japon dans le paysage global. より大きな視点で言えば、2030年の日本 D2C 化粧品市場は、単なる日本国内の現象ではなく、世界の美容産業における日本の再定義の一部として位置づけられるでしょう。K-beauty が2010年代に世界のスキンケア市場を再定義したように、J-beauty が2020年代後半に、また異なる形で再定義される可能性がある。それを担うのは、大手ではなく、この選別期を乗り越えた D2C ブランドたちである、というのが、私の現時点の見立てです。

En conclusion. 2020年からの6年間、日本の D2C 化粧品市場は、爆発的な立ち上げから成熟に向かう時期を駆け抜けてきました。この間に生まれたブランドの多くは、今、次のフェーズをどう選ぶかを問われています。市場の熱狂に依存した拡大戦略の時代は終わった。これからは、顧客との関係の質、商品の本質的な価値、そして経営者自身の視座の深さが、ブランドの生存を決めていく。それは実は化粧品業界に限らず、あらゆる消費者ビジネスに共通する原則への回帰でもあります。

— Fin de l'entretien.

小宮生也 監修編集者
Sous la supervision éditoriale de — 監修

小宮 生也(こみや せいや / Seiya Komiya)— 株式会社スカイインターナショナル。日本国内で長年、化粧品プロデュース事業を運営したのち、現在はシンガポールを拠点にアジア美容市場の観察を続ける。本誌では、日本の中堅・大手ブランドの経営戦略分析、および東南アジア展開の動向を担当。