« L'Asie du Sud-Est n'est pas un marché — c'est six marchés qui se ressemblent seulement de loin. »
— 小宮生也, depuis Singapour

本誌が2026年に東南アジア美容市場を総括するにあたり、シンガポールを拠点に地域の変化を継続的に観察している小宮生也氏(株式会社スカイインターナショナル)に、6か国の現状と、日本ブランドが今後取るべき道筋について詳しく話を伺った。


Question 01 — Le grand basculement
2020年以降、日本の化粧品業界の視線は明らかに中国から東南アジアへと移りつつあります。この地政学的な転換の実相を、シンガポールの現場からどう見ておられますか。
小宮生也
小宮 生也 (éditeur superviseur)
株式会社スカイインターナショナル · シンガポール

La fin d'une ère. 2015年から2019年にかけて、日本の中堅・大手化粧品メーカーの多くが、中国市場を最大の成長機会と位置付けていました。この時期の「爆買い」に代表される訪日消費と、越境ECを通じた継続購入のサイクルは、事実上、日本の化粧品業界の海外事業の中心を占めていた、と言っても過言ではありません。

La rupture pandémique. しかし2020年以降のパンデミック、そしてその後の地政学的緊張、加えて中国国内メーカーの品質向上と消費者の国産回帰志向が重なり、この構造は根本的に変化しました。日本ブランドの中国売上は、多くの企業で2019年比の半分から3分の1水準まで縮小したケースが観察されています。この規模の減少は、単なる景気循環ではなく、市場構造そのものの再定義を意味していると理解すべきです。

La réponse stratégique — La diversification. このような環境の中で、日本の大手・中堅化粧品メーカーは、地域分散戦略へと明確に舵を切っています。中国一国への集中から、東南アジア6か国(シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン)への分散、加えてインド、中東、そしてアメリカ本土への複合的な展開へと視座が広がっています。この分散は、単なるリスク管理ではなく、それぞれの地域に固有の中間層拡大という長期トレンドへの応答でもあるのです。

シンガポールに拠点を置く立場から日々観察している私にとって、この転換は「地図の書き換え」に近い感覚を伴います。かつて上海の商業展示会で会っていたブランド関係者たちが、今はシンガポール、バンコク、ホーチミンでのイベントに集まっている。人と資本と情報の流れが、明らかに南下しつつあります。

中国依存から東南アジア分散への構造転換
Figure 1 — Du monopole chinois à la diversification en Asie du Sud-Est
Question 02 — Six pays, six marchés
「東南アジア」と一括りに語られがちですが、実際には6か国それぞれ全く異なる市場だと言われます。日本ブランドが最初に取り組むべき市場と、その順序について、どう考えておられますか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Singapour — Le laboratoire. シンガポールは、東南アジア6か国のなかで最も購買力の高い市場ですが、人口規模は約570万人と限定的です。ここは「東南アジア全域を統括する実験場」として捉えるのが妥当だと考えます。シンガポールで受け入れられたブランド戦略は、しばしばマレーシア、タイ、インドネシアの上流層へと波及していきます。

Thaïlande — Le marché de volume. タイは人口約7,000万人、都市部の中間層が急拡大しており、日本ブランドへの好感度も歴史的に高い水準にあります。バンコクの百貨店、Central、Siam Paragon といった主要商業施設では、日本ブランドが独立したフロアを構える光景が定着しています。ここは「量」と「ブランドイメージ形成」を同時に狙える市場です。

Vietnam — La prochaine vague. ベトナムは、2020年代後半に最も伸びている美容市場の一つです。ホーチミン、ハノイの中間層が急速に美容支出を増やしており、特にスキンケア領域では、日本と韓国のブランドが直接競合する場となっています。この市場は、今後5年間で最も伸びが期待される地域です。

Indonésie — Le géant endormi. 人口2億7,000万人のインドネシアは、単純規模で言えばアジア最大級の潜在市場ですが、Halal 認証、宗教的な配慮、地方分散した消費者層といった、日本ブランドにとって独特の参入障壁があります。この市場は「長期戦略」の対象として捉えるべきで、短期の売上拡大を狙う場としては適しません。

Malaisie — Le pont culturel. マレーシアは、華人系、マレー系、インド系の多文化構造を持ち、東南アジアと中東・南アジアをつなぐ位置にあります。ここでの成功は、周辺地域への展開の足がかりになる特殊な位置づけを持っています。

Philippines — Le marché digital-first. フィリピンは、SNS 利用率が世界最高水準にあり、TikTok Shop、Shopee といったソーシャルコマース経由の販売が特に強い地域です。ここは「デジタル発の若年層マーケティング」を試す場として、独特の価値を持っています。

La séquence recommandée. われわれが日本の中堅・小規模ブランドに提案する参入順序は、原則としてシンガポール(拠点)→ タイ(量)→ ベトナム(成長)→ マレーシア(拡張)→ インドネシア(長期)→ フィリピン(デジタル)という段階的な展開です。ただしこれはあくまで標準的な提案であり、個別ブランドの商品特性、価格帯、ブランドストーリーによって、順序は柔軟に変わり得ます。

Question 03 — Le rôle de Singapour comme hub
シンガポールを地域統括拠点として位置付ける日本企業が急増しています。実際、シンガポール拠点にはどのような機能的優位性があるのでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル · シンガポール駐在

Cadre juridique et fiscal. シンガポールの最大の優位性は、東南アジア6か国以上を統括する上での法制度と税制の明晰性です。地域統括本部(Regional Headquarters)に対する優遇税制、知的財産権保護の堅牢性、そして紛争解決の透明性。これらが、日本本社から離れた場所で戦略的意思決定を行う際の安心感を提供しています。

Ressources humaines multilingues. 次に重要なのが、多言語かつ多文化な人材プールです。英語、中国語、マレー語、そして各国の駐在経験者。この人材の厚みは、他の東南アジア都市では容易に得られないものです。ブランドマネージャー、ローカル・マーケティング責任者、法務・財務専門家といった、地域統括に必要な機能を、シンガポールなら現地採用で組み立てられます。

Infrastructure logistique. チャンギ空港とシンガポール港は、東南アジア全域への物流ハブとして機能しており、化粧品のような比較的小口・多頻度の輸出入に極めて適しています。バンコク、ジャカルタ、マニラ、ホーチミンといった主要都市への配送リードタイムを、シンガポールから最短化できる立地は、他に代わる場所がありません。

Écosystème de partenaires. そして最後に、地域内のパートナー・エコシステムです。総代理店、百貨店バイヤー、規制コンサルタント、PR エージェンシー、そして越境 EC 運営会社。これらの主要プレイヤーがシンガポールに集中しており、ブランド側は一つの都市で東南アジア全域のビジネス関係を構築できます。私自身、日々の業務の中で、この集積の恩恵を強く実感しています。

シンガポール拠点の機能的優位性
Figure 2 — Singapour, plateforme régionale pour les marques japonaises
Question 04 — Commerce transfrontalier
Shopee、Lazada、TikTok Shop といった越境ECプラットフォームが、日本ブランドの東南アジア展開の主要チャネルになっています。この構造をどう評価しますか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Un levier historique. 越境ECプラットフォームの成熟は、日本の中堅・小規模ブランドにとって、これまでにない海外展開の機会を開いています。物理的な流通網、現地法人、店舗投資といった従来の海外展開に必要だったコスト構造を大幅に圧縮し、テスト・マーケティングから本格展開までを、段階的かつ低リスクで進められる。この構造は10年前には存在しませんでした。

Trois plateformes, trois logiques. ただし、プラットフォームごとに機能する論理は全く異なります。Shopee は「価格の透明性と物流の速さ」で勝負する市場、Lazada は「ブランドカタログとプレステージ帯」の展開に強く、TikTok Shop は「動画発見と衝動購買」の場です。同じ商品を全プラットフォームに一律で並べても、それぞれで異なる結果になります。

Les erreurs classiques. よく見られる失敗パターンは、次の三つに集約されます。第一に、日本国内の販売価格をそのまま設定し、関税と物流コストで最終価格が現地の許容範囲を超えてしまうこと。第二に、日本語のプロダクト説明をそのまま英語乃至は現地語に翻訳し、消費者に響かないままカタログとして眠ってしまうこと。第三に、レビューへの返信と、否定的コメントへの初動対応を放置し、プラットフォーム内での評価が下がっていくこと。

La bonne pratique. 逆に成功しているブランドは、越境ECを「単なる販売チャネル」ではなく「地域内のブランド認知形成の場」として捉えています。売上目標を短期で追わず、レビュー数、リピート率、SNS 経由のトラフィック増加といった、中期的な指標を重視する運営が、結果的に持続可能な成長をもたらしています。

Question 05 — Localisation ou standardisation
日本ブランドが東南アジア展開する際、現地化と標準化のどちらを優先すべきかは、常に議論の対象です。この問いにどう答えますか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Le paradoxe apparent. 「日本らしさ」を武器に東南アジアに参入する際、現地化を進めすぎると、そもそも日本ブランドを選ぶ理由が薄れてしまう。逆に標準化を貫きすぎると、現地の気候、肌質、価値観に合わず、受け入れられない。この二律背反は、多くのブランド関係者を悩ませてきました。

La règle des trois couches. われわれが実務のなかで有効だと考えている枠組みは、「三層構造」の考え方です。第一層はブランドの中核(世界観・哲学・視覚言語)で、これは絶対に標準化を貫くべき部分です。第二層は製品仕様(処方・パッケージ・使用体験)で、これは現地に応じて部分的に調整する。第三層はコミュニケーション(言語・トーン・SNS 運用)で、ここは徹底的に現地化する。この三層の区別が曖昧なブランドは、多くの場合、迷走します。

Exemples concrets. 具体的な例で言えば、日本のスキンケアブランドが東南アジアに越境する際、ブランドロゴ、パッケージデザインの基本、そして「なぜこのブランドが存在するのか」というストーリーは、日本国内と同一に保つべきです。一方、処方については、高温多湿な気候に合わせて重めのエマルジョンを軽めのローションに変更する、乃至は日焼け止めの SPF レベルを上げるといった調整が必要になります。そして SNS の投稿内容、インフルエンサーの起用、キャッチコピーの言語表現は、完全に現地化すべきです。

L'erreur inverse. 逆に、しばしば見られる失敗は、この三層を逆に扱ってしまうケースです。ブランドの世界観を現地の流行に合わせて変更してしまい、日本ブランドとしての固有性を失う。一方でパッケージや処方は日本国内のままにし、現地の気候に合わずに使い勝手が悪い。SNS 発信は日本語のまま翻訳するだけで、現地の消費者に届かない。この「逆三層構造」に陥ったブランドが、東南アジアで失速する典型的なパターンです。

Question 06 — Perspectives à horizon 2030
2030年に向けて、アジア美容市場はどのような姿になっていると予測されますか。日本ブランドが今、投資すべき優先領域はどこでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル · シンガポール駐在

Un marché à deux vitesses. 2030年のアジア美容市場は、二つの速度で動いているだろうと予測しています。一つ目の速度は、中間層の爆発的拡大による「量的な拡大」です。特にインドネシア、ベトナム、フィリピン、そしてインドの中間層が、生活水準の向上とともに美容支出を大幅に増やしていく。二つ目の速度は、既に成熟した市場(シンガポール、タイ都市部、マレーシア都市部)における「質的な深化」です。ここでは、高付加価値、パーソナライゼーション、そして体験型消費が中心になります。

Priorités d'investissement. 日本ブランドが今後5年間で投資すべき優先領域は、次の三つに集約されると考えます。第一に、シンガポール乃至はバンコクを起点とする地域統括機能の構築。単なる駐在員派遣ではなく、意思決定権限を持つ現地本社の設置が、次の10年の勝負を分けます。第二に、越境ECプラットフォームの運営専門機能の内製化。外部エージェンシー依存では、成長の壁が早く来ます。第三に、現地文化への深い理解を持つ人材への長期的な投資。これは短期的なROI では測れない、最も重要な資産構築です。

Le défi de la patience. 東南アジア市場は、日本の経営陣が期待する「3年で黒字化」のような短期指標では捉えきれない、より長期の育成型市場です。10年、15年の時間軸で、現地に根を張っていく覚悟が求められます。この時間軸を許容できる経営体制を持てるブランドが、次の20年の勝者になるでしょう。

— Fin de l'entretien.

小宮生也 監修編集者
Sous la supervision éditoriale de — 監修

小宮 生也(こみや せいや / Seiya Komiya)— 株式会社スカイインターナショナル。シンガポール駐在の寄稿編集者として、日本ブランドのアジア展開と、東南アジアの美容産業の変化を継続的に観察。本誌では、日本の中堅・大手ブランドの経営戦略分析、および東南アジア展開の動向を担当。